「キンズマラウリ」といえば、ロシア関係者で知らない人はいない、というほど有名なワイン。ソ連の最高指導者スターリンが愛飲したワインとしてよく知られています。ジョージアの黒葡萄サペラヴィを晩熟させた遅摘みのブドウから造られる半甘口スタイルの赤ワインです。
8月3日・4日に行われた全日本最優秀ソムリエコンクール(兼アジア・オセアニア最優秀ソムリエコンクール 日本代表選考会)のグランドファイナルの録画をYouTubeで観ていたら、Atelier2の課題のうち一本にキンズマラウリが出題されていました。
ゲストが持ち込んだ以下のワインにペアリングメニューを提案せよという問題でした。
出題されたワインは次の5種類。
1. Gravner Ribolla 2008
2. Testalonga El Bandito Skin Contact Chenin Blanc 2017
3. Donkey & Goat Ramato Pinot Gris 2018
4. Telavi Wine Cellar Marani Kindzmarauli 2018
5. Grace Wine Cuvee Misawa Ridge System 2009
(↓これ以降はキンズマラウリの部分にだけ触れながら書いていきます)
一番手の銀座レカンの近藤氏、ジョージアと明言していなかった(ような気がする)けど東欧のワインというところまでは分かったのか、「中華、それもオイスターソースを使った料理に合う」と述べていたようです。ワインの色や味わいがわからなくても無難な答えかなと思いました。
次のClos Yの中西氏、フランス語だったので私には全部理解できたわけではないけれど、porc、Iberique、Sauce au vin jauneなどの単語が聴き取れた(ような気がする)のでイベリコ豚のヴァン・ジョーヌ・ソースなどと答えてたのではないかしら。合うかどうかはおいといて、これはこれで美味しそうです。
ただ最後のキュヴェ・ミサワにはdessertを提案していたことをふまえると、私だったら、チーズケーキか果物に合わせたいかなと思いました。というのもこれ、ソムリエコンクールによくあるひっかけ問題で白赤の順番をめちゃくちゃにしてあって並び替えも考慮する問題だと最後の講評でどなたかが仰っていたようないなかったような。(どっち)
3番手のL'asの佐々木氏、国・品種・味わいは完璧に把握されていた様子でした。すき焼きを提案していたのは良かったですね。サペラヴィにすき焼き、一緒に食べてみたいです。
準優勝されたコンラッドの森本氏、キンズマラウリにデキャンタージュを提案されていたのは面白いです。豚肉のBBQとかチーズパンとか提案されていたのは、細かいところまでよく勉強されてるなぁと感心しました。
最後、優勝されたロオジエの井黒氏、キンズマラウリを知らなかった様子でオレンジワインと言い切って話を進められていました。たしかドンキー&ゴートのPGもセニエのロゼと言ってた(ような気がする)し…。でも語学は一番堪能で受け答えもスマートでした。
と、色々思うところあったのですが、実際の現場の状況として、全然見たことも聞いたこともないようなワインをお客様から持ち込まれる可能性は大いにあるだろうし、それに対して知らなかったとしてもソムリエとして堂々とした立ち居振る舞いを保ちつつゲストに楽しんでもらう能力が大事なのかな、なんてことを考えました。
その次の課題でサービス中のゲストとの会話中に甲州のルーツについて問う問題があったのですが、みんな口々にすらすらとコーカサスと回答されていて、よく勉強されているなぁと心から感心しました。
(ちなみに最後の挨拶で石田博氏がクヴェヴリ(Qvevri)を「"キュ"ヴェヴリ」と発音されていたような気がしましたが、「Q」のスペルに引っ張られたのでしょうか…)
一般にはキンズマラウリなんて知らない人がほとんどなんだなということをあらためて思い知ったわけですが、色々と勉強になった動画でした。4時間くらいあるのですが、観てよかったと思います。
なお、ソムリエ教本ではPDOキンズマラウリはカヘティ地方の中でも最大の栽培面積となっており造っているメーカーも多いですが、スターリンが国家防衛委員会議長に就任した1941年の翌年からできたごく新しい産地であり、半甘口となると、今の世界のワインの流行や時代背景からして今後だんだんと廃れていくワインなんじゃないかな、なんてことを考えました。
それでは私だったらキンズマラウリにどんな料理を合わせるかというと、スパイス系の辛い料理、たとえばインド風(日本や欧風のではなく)のスパイスカレーにチャツネを足す感覚でキンズマラウリを合わせるという提案をして締めくくりたいと思います。